原作も他の章も見ていないのに『空の境界 第五章 矛盾螺旋』見に行った

大ナタ振って今のアニオタ勢力図を二分すれば『スカイ・クロラ』を見に行くタイプと『空の境界』を見に行くタイプに分けられ「OVAを小屋で流すんじゃねえよ」「ジジイのオナニーなんか見たくないんじゃ」と互いに作品を黙殺し合う冷戦状態が続いている。平和主義者たるおれはおんまそういうのは好ましくないよなーと思っていて「みんなアニメ好きでしょ、もっと仲良くしようよー♪」と天使のような気持ちで、お互いの架け橋になれればとスキップをしながら『空の境界 第五章 矛盾螺旋』(原作未読・1-4章未見)を見に行った。がダメだった。このままタイピングを続け感想を書いたら両者の架け橋になるどころか戦火の楔を打ち込むことは必至。おれは天使なんかじゃない、堕天使だ。上映中、どう頑張ってもポジティブな感想を思いつけない自分自身に段々腹が立ってきた。
実際のところ、おれは上映開始前からイライラしていた。それは別に観客がオタだらけでオタ酔いしたせいじゃない。「『空の境界』は各回ともに予告編無し、本編からの上映になります」というアナウンスを聞いてからだ。映画館へ足を運ぶ者の中には予告編を一つの楽しみとしている人も多いことを興行側が知らないわけがない。もしやテアトル新宿は「こんな作品を見に来るオタは実写なんか興味ないだろうから予告流したってムダムダ」と考えているのか、そうに違いない! なんたる屈辱か。
だが流れないのは予告編だけではなかった。映画上映前に私たちをイラつかせる映画盗撮防止キャンペーンCM『NO MORE 映画泥棒!』も流れない。マナーを促す映像も『空の境界』のクレイアニメだ。デジタル上映なのでパンチマークやフィルムキズすらも混ざらない。スクリーンには『空の境界』以外の邪魔者が投影されることはないのだ。あらかじめノイズが排除された純粋な環境。そうか、予告編を流さなかったのは未知の作品と出会う機会を奪うためではなく劇場の純度を上げるためだったのか。作品を純粋に楽しむために観客もそれを望んでいる。作品の予告もただのノイズにしか過ぎないのだ。そんな劇場の中で原作も他の章も見ていないおれだけが招かれざる客、劇場の中の唯一の不純物だ。
そう気付いた途端、上映中にもかかわらず、なぜか『NO MORE 映画泥棒!』のビデオカメラ男が頭に浮かんだ。白いスクリーンから追い出されてしまった彼は何処でロボットダンスを踊ればいいんだ? おれは暗闇の中で映し出されるアニメキャラの光を顔に浴びながら彼の居場所を心配することしかできなかった。