『手塚治虫のブッダ-赤い砂漠よ!美しく-』を観てきた。

手塚治虫ブッダ-赤い砂漠よ!美しく-』が結構面白かったので評判を調べてみたらかなり悪い。宇多丸も酷評してる。いやー確かに説明不足な所が多かったけど絵は全体的に整っててまぁ良かったんじゃないの。合戦も迫力あったし、あんなに動物が動く作品久々に見たけどなぁ。大黒屋でチケット380円だったけど普通に1800円払ってもよかった。それに褐色で薄着のキャラクターがエロかったじゃん。エロ過ぎておれのガウタマもシッダールタしそうだったよ。なんで低評価なんだろと少し調べた所とりわけ声優陣が不評なようで「吉永小百合が下手」と観なくても分かる批判までされている始末。おれはむしろ逆で「声優に救われてるなー」という印象が強かった。あからさまに足りてない説明描写が声優の演技や配役によって補われていて、その点から言えば『手塚治虫ブッダ-赤い砂漠よ!美しく-』は声優アニメだなーと思いながら観てた。
たとえば主人公のブッダ。彼はいつも悩んでる。王様の息子なんだから別にイケイケで良いじゃんって思うんだけど、なぜか人の生死について考えたりしちゃう。その理由がよく分からない。子供の時に友達が沼に沈んで死ぬのを目撃しちゃうのも一因なんだろうけど、こりゃ人生悩むわって程のインパクトを持って描けている訳でもないし、ブッダは事件起きる前からイジイジしてたのでやっぱり分からない。だがブッダの声優が誰だったかを思い出せば即解決。そうか吉岡秀隆か、そりゃ悩むわ。というのも吉岡秀隆は『北の国から』でも『男はつらいよ』でも『Dr.コトー診療所』でもずっと悩む人物を演じてきた役者だからだ。寅さんに「人間はなんで生きてるのかな」と聞いてしまう程の哲学者。そもそもオタ的に考えれば吉岡秀隆はあの新海誠、男が何かに捕らわれ悩み続ける作品ばかり産み出す新海誠に『雲のむこう、約束の場所』で主役に抜擢されるほどの人物ではないか。むしろ吉岡秀隆の声質を持って生まれ悩まない方がおかしい。ネットスラングに倣って言うならば吉岡秀隆中二病ならぬ中二声の持ち主なのだ。
そのブッダのお父さんに声を当てているのはなぜか能楽師。声優どころか俳優でもないため正直ヘタで、島田敏から魅力を抜いたような声質。けれども数々の大作アニメを芸能人の吹替で蹂躙されるのに慣れてしまったオタにとっては想定の範囲内でしかなく「ああ演技の未熟さを純粋さや正しさとして扱うパターンね」と分析させる余裕さえも与えるだろう。実際お父さんは王様なのに傲慢なところがなく、ブッダが生まれ喜ぶ姿はいかにも優しそう。だから作品中盤でブッダと仲良くなった水樹奈々を「卑しい女」呼ばわりして磔にする豹変っぷりに驚きを隠せない。と同時に芸能人枠で声優してる人にとっては水樹女史ですら下鮮扱いなのかとショックを受けてしまう。紅白に出場したのに…武道館公演もしたのに…『レイトン教授』では特別出演だったのに…。さらに水樹女史は罰として両目を焼かれてしまうのも何やら示唆的である。これに限らず『手塚治虫ブッダ』の女性声優は豪華な割に不幸な結末を迎えるキャラクターが多く、朴璐美は登場してスグ死んでしまうし、能登麻美子との結婚生活を捨ててブッダは出家してしまう(なんて贅沢な)
同じように大谷育江の演じるキャラクターも家族が死んじゃったりと不幸なのだけど、それ以上に気になる点がある。このキャラ、作中では10年くらい経過しているはずなのに見た目が子供のまま変わらないのだ。他の登場人物は時間経過に合わせキャラクターデザインも変わるのでさすがに違和感を覚えるのだが、成長しない理由も例によって説明されず終い。レビューでは明らかに不備じゃないかと言う意見も多かった。だがこれも大谷育江が声を当てていることを考えればよろしい。彼女は10年以上も成長しない、正しく言うならば「進化」しないキャラクターを演じ続けているではないか。一件落着だ。動物の意識を乗っ取って自由に動かせるという世界観ぶち壊しな能力を持ってるのも、その国民的キャラクターを演じているからという理由で何とか誤魔化せるだろう。普段は意識を乗っ取られたかのようにバトルさせられてる訳だし。
最後は消えた息子を探すお母さん。作中ナレーションまで担当しているので正しい母の象徴のようなキャラなんだろうな−。と思いながら見てたんだがお母さん作中でほとんど何もしない。息子のため尽力するのは大谷育江と途中で出会ったお坊さんだし、結局会いに行ったせいで息子が奴隷階級出身だと部下にバレてしまう。息子は口封じのため殺そうと部下の横腹を一刺しするも、致命傷には至らず部下は這って逃げ出す。息子は古傷が疼き動けない。この一部始終目の前で見ているお母さん、そこで息子の代わりに剣を取り、みたいな展開になるのかと思いきや立ちすくむだけで何もしない。えー見てるだけかよーって思っちゃったんだけど、吉永小百合演じてる訳だし。平和活動も行っている吉永小百合が、息子のためとはいえ殺人を犯す役なんて似合わないよなー。タモリに怒られそう。
でもこのお母さんの行動力のなさって目を見張るものがあって「母が死刑になるならおれも死ぬ」って言った息子を諭さず一緒に死んじゃう。そもそもこのお母さん幼い息子が鞭打ちの刑食らってる時に当然「代わりに私を」って言うんだけど、その時カウント60回目あたりなんだよなー。それまでずっと何もせず見てたのかよ。ホントにこの人良いお母さんなんだろうか。何か坊さんと関係持ってそうだし。母性が何よりも尊いものとされるアニメが多い中で、この嫌な感じのするお母さんは良いな−。ってとりとめがなくなって来たけれど、まぁ結構面白かったので観にいったらどうでしょうか。