なぜオタは加藤

「なぜオタで傷つきました」とよく言われる。昨日も言われてしまった。見知らぬ人から言われてしまった。
接客業経験の長いおれはとりあえず謝罪をした後で弁明に走る。これでも気を使っていると。危険なのでお蔵入りにしたのが何個もあると。先日の『Angel Beats!』の感想だって「ってことは彼女が来世でも障害を負ってると確定させちゃった訳だろ。ひどいよーひどすぎるよー。女の子が永遠に不自由であることを望むオタの罪深さ」という結論は書かなかったと。それに君が傷ついた「なぜオタはいきなりプロレベルの作品を作ろうとして挫折しますカ」はおれが書いたんじゃないと。それでも納得はしてもらえない。
よく見ると彼は頭から血を流していた。これがなぜオタで受けた傷らしい。それ以来血が止まらない。どうしてくれるんだとおれを責める。このままでは埒が明かない。もはや最終手段しかあるまい。おれはボタンに手をかけ、服を脱ぎながら叫んだ。
「君はなぜオタで傷ついたかもしれない。だがおれの方がもっと傷ついている!」
上半身裸となり体に刻み込まれた無数の傷を晒した。大小さまざまな傷痕の全てはなぜオタで受けたものだ。ひとつひとつの傷に指差し「これはあのなぜオタで受けた傷」と説明を加える。実体験を元にしたなぜオタで笑われ、親友を元にしたなぜオタで友を失った。その悲しみが君には分かるか。おれがなぜオタを書いているのではない。なぜオタがおれに書かせているんだ。おれもなぜオタの被害者だ!
決まった。彼はうつむき震えている。もはや言葉も出ないだろう。このまま立ち去ろう。しかしその背中に彼の予想外の一撃が突き刺さった。
「じ、自分が傷ついているから他人を傷つけても良いだなんて、そんなの秋葉原の通り魔じゃないですか。なぜオタは加藤ですよ!」
そうか、そうだったのか。分かったぞ。アラサー兼無職という通り魔に近い境遇でありながら、おれが犯罪者になっていない理由。自分の破壊衝動をなぜオタに押し付けることで心の平穏を得ていたんだ。なぜオタが代わりに人を傷つけることでおれを、ひいては世界を救っていたんだ。いつの間にか胸からは鮮血が噴き出し、押さえた手は真っ赤に染まっている。おれは薄れ行く意識のなかでなぜオタに感謝を捧げた。ありがとうなぜオタ。